十二音技法(とセリー技法)について解説してみる
先日、ソフトサンプラーKONTAKTで十二音音楽を簡単に演奏できるスクリプトを公開しましたが、そもそも「十二音技法とは何か」の説明がないのは不親切ですから、拙いながらも概要を私なりにまとめたいと思います。
十二音技法とは、1オクターブにある(ド〜シの)12音全ての音をなるべく均等に使う作曲方法となります。調性のある音楽の場合、ハ長調の曲は「ドレミファソラシ」を、ロ長調なら「シド#レ#ミファ#ソ#ラ#」を多めに使うなど、当然音の選択に偏りがあるはずです。これをなくし、12音すべてを平等に使おうとするアプローチです。
美術の成績が良くなかった私が言うのもアレですが、絵画でいえば「森の絵を描けば緑の絵の具ばっかり、海の絵を描けば青の絵の具ばっかり。これだと新しいものは生まれないから、全部の絵の具を均等に使ったら?」という発想になるのでしょうか。そういえば幼稚園ぐらいの頃、「絵の具の色を全部使うんだ!」と意気込んで、スケッチブックにゴテゴテと変な絵を描いたイタズラを思い出しましたが(皆さんも経験ありませんか?)、方向性としては同じではないかと。
ところで十二音技法を推し進めたのは「新ウィーン楽派」と呼ばれる方々で、シェーンベルクとその教え子のベルク・ヴェーベルンの名前が上がります。十二音技法を確立する以前の作品を聴いてみると、今後無調に向かうきっかけのようなものがわかると思うのです。
Youtubeの検索一覧へのリンクを張っておきました(「浄夜」の方は、顔のような抽象画がサムネに出てきてビックリするのでご注意を)。いずれも確か楽譜に調号が振ってあったはずですが、半音進行の様相など「調性の限界に挑む!」的な雰囲気があります。同じ時代の作品では、例えばマーラーの9番交響曲も和声的に似た傾向にあると思います。
こうして、無調音楽への流れができあがります。例えばシェーンベルクの一番有名な作品である「月につかれたピエロ」、これは十二音技法そのものではありませんが、「12音を均等に使う」という発想がこの時点で現れています。
譜面は第2曲のラストから持ってきており、最後のVnの駆け上がりフレーズで出てくる音はみんなバラバラです。そのあとに続くClのG音(実音E)と合わせると、12音がすべて登場することに。
ヴァイオリンはドイツ語”Geige”の略で”G.”と記載されています。詳しくは、移調楽器と楽器名に関する当ブログの別記事をご覧ください。
十二音技法の登場
このように12音を均等に鳴らそうとする発想ですが、人間は好みがありますから無意識のうちに同じ音を使ってしまうわけです。そこで「12音を等しく登場させる」ことを徹底するため、下のように音を1個ずつ使って音列を作り、この順番を守って音を紡いでいくという方法に発展していきます。これが十二音技法です。
1つ音列を作れば、上下左右をひっくり返すことによって3つの派生形ができあがります。
この4つはそれぞれ12通りに移高できますので、合計48通りの音列を自由に使って作曲する形となります。
十二音技法を使った曲としてとりあえず、ヴェーベルンの「ピアノのための変奏曲」がシンプルで聴きやすいので挙げておきたいと思います。
同じ曲になりやすい?!
十二音技法はすべての音が平等ですから、結果的に似たような響きばっかりになってしまうという限界があります。この問題に対してはベルクが面白いアプローチをしていて、ヴァイオリン協奏曲で調性を感じさせる音列を使っています。
ソシbレ、レファ#ラ……と5度の機能進行的な並びで、長和音と短和音を代わり代わりに登場させ、最後は全音音階です。このおかげで、音の組み合わせによっって様々な「色」が見えてくる作品となります。
この曲は、ラストにバッハのコラールが聞こえ、天に召されるような終わり方をするところも印象的です。コラールというと和声法の代表格のようなもので、十二音技法とは正反対に位置する響きだと思うのですが、見事に融合しています。
その後
十二音技法を発展させたものとして、音程だけではなく、音の長さや強弱などあらゆる要素について数列を作り制御していくという「セリエル音楽」が登場します。この研究が盛んだったのがドイツの「ダルムシュタット夏季現代音楽講習会」(現在も行われています)だそうで、ブーレーズ、シュトックハウゼン、ノーノといういかにも「ザ・前衛」という感じの方々が登場します。
ブーレーズの「ストリュクチュール(構造)」の第1巻を聴いてみますと、1音1音を厳格にコントロールした作品だということがわかります。とは言いつつ、Youtubeのコメントに”The Piano Cleaning Piece”(ピアノのお掃除の作品)と書かれていて不覚にも笑ってしまいました。確かに、鍵盤を布で拭くときに出る音にも似ていますが、セリエル音楽が確立された頃はこういう「点描」のような響きが多い感じです。
シュトックハウゼンもセリー技法をベースにした独自の仕組みで曲を書いていますが、ピアノをリングモジュレーターなどで変調させた作品「マントラ」の、英語版Wikipediaのページに色々解説がありましたので興味があればご覧ください。最近、シュトックハウゼン解説の決定版となりそうな書籍も出版され、日本語でこういう情報が手に入るのはありがたいですね。
そうそう、シュトックハウゼンといえば電子音楽ですが(「テレムジーク」は半世紀前以上も前の作品ですが、まさにDTMといえる制作をすでに行っていたわけで驚きです)、ご子息のサイモンさんも音楽家で、ソフトシンセやサンプラーのプリセットを色々作っているので、DTM界隈の方でご存じの方もいらっしゃると思います(たまにセールもあり)。
DTMと話がつながったところで、この記事は終わりとさせていただきます。