「移高が限られた旋法」の鍵盤早見表を作りました

オリヴィエ・メシアンは20世紀の芸術音楽の旗振り役として大きな功績を残しましたが、大変ありがたいのは自著の中でその作曲のテクニックを惜しみなく披露してくれたということです。

著書の「音楽言語の技法」(細野孝興訳)の中には、メシアン初期の作曲技法について、響き・旋律線・リズムなど多岐にわたる言及がありますが、その中でももっとも特徴的ともいえるのが「移高が限られた旋法」です(フランス語modes à transpositions limitéesの略で、以下MTLと表示させていただきます)。

1オクターブの中には12の音があり、通常の音階は移高によって12のパターンが作れるはず。ですがメシアンのMTLは、半音ずつ移高していくとどこかで構成音が最初のものと一緒になってしまい、結局12通りに移高できないものとなります。

これらの旋法は、短い音列(例えば第3旋法なら「全音、半音、半音」と並ぶ音列)を繰り返していくことで作ることができるのですが、一つの旋法から多調的な響きを生み出す面白い効果があります。

メシアンの音楽はキリスト教との関連から、よく「ステンドグラス」に例えられることが多いのですが、MTLが生み出す響きのイメージは個人的に「万華鏡」がぴったりだと感じています。万華鏡は、筒を少しずつ動かすと次から次へと模様が変わっていきますが、MTLの場合、旋法に従って和音を作り、構成音を少しずつずらしていくと色々な調の響きが生まれます。

鍵盤で、早見表に

MTLは既存の長調・短調の体系に当てはめにくく、五線譜に表すと臨時記号の嵐で(もはや「臨時」でもなんでもないですが)かなり煩雑なものになります。響きは長和音なのに、記譜上そう見えないということも頻繁に。ですから、むしろ鍵盤に記した方がわかりやすいと思い、第1旋法から第7旋法まで、すべての移高型を含めて図にしてみました。第2旋法以降は2オクターブ分です。

移高が限られた旋法その1
移高が限られた旋法2
移高が限られた旋法その3

使いどころがかなり限定される図だとは思いますが、こんな用途にどうぞ。

  • 「音楽言語の技法」を読む際の補助として
  • メシアンや、メシアンから影響を受けた武満徹などの作品の分析のために(譜読みはそれほど速くならないと思います)
  • 作曲のインスピレーションを得るために

特に下について、MTLは無調音楽でなくても十分活用の余地があります。経過句で使って不思議な浮遊感を生み出したり、遠隔調に転調するときの手がかりにしたりと、色々なアイディアに役立てるのではと思います(私自身はまだ実践できていないところではありますが……)。

ちなみに「音楽言語の技法」で「第1移高」と書かれていたら、それは旋法の基本形(C音から始まる)のことです。決して「旋法の基本形を1半音移高したもの」ではありませんのでご注意を。第2移項は基本形の1半音上、第3移項は基本形の2半音(1全音)上……と考えればOKです。