「近代和声学」が国会図書館デジタルで読めるようになって感動です

2022年5月より、国会図書館の「個人向けデジタル化資料送信サービス」が始まりました。絶版になった書籍など、デジタル化されている膨大な資料を自宅にいながら読むことができるようになったというわけです。

これらの資料は、これまでも「図書館送信」という形で、近所の図書館に出向き、そこに設置してあるPCから閲覧することはできたのですが、長い時間をかけて読む本だとなかなか利用しにくいという事情がありました。

専門書、特に音楽理論の本というのは絶版になりやすく、高価な物が多いので購入を迷っているうちに入手不可に……ということが多くあります。

絶版書籍で特に私が読みたかったのが、松平頼則「近代和声学」で、20世紀前半ぐらいまでの音楽語法を広範囲にまとめた全編300ページ超の理論書です。

国会図書館のサイトから検索してみると「近代和声学」も個人送信(閲覧)の対象になっていることが確認できましたので、早速5月末に国会図書館の利用登録をしてみました。

「デジタル化資料送信サービス」が受けられる「本会員」になるには本人確認が必要で、書類のアップロードなど手続きはすべてネットで完結しますが、登録まで5開館日ほどかかるとのことでした。

ところが、このサービスを心待ちにしていた方は想定外に多かったようで(Twitterなんかでも結構盛り上がっていました)、2022年6月時点では登録作業に結構な時間がかかるようです。私も登録完了通知が届いたのは、結局ちょうど2週間経ってからのことでした。

これから登録する方は、身分証明で運転免許をアップロードすることが多いと思いますが、表裏両方のコピーが必要ですからご注意を!私は過去にデジカメを下取りに出した時にそうした記憶があったので大丈夫でしたが、申請後しばらく経ってから「免許証の裏の写真がないよ」とやり直しのメールが届いた方も結構いたらしく、なかなか気の毒でしたので……

いったん本会員登録されれば、IDとパスワードでログインして、普通にブラウザで閲覧できます。特殊なアプリなどは必要ありません。

「近代和声学」の簡単なご紹介

これで晴れて書籍の閲覧ができるようになりました。解像度は十分で、丁寧にスキャンされています。特に回線速度の遅さを感じることもありません。

ここで、「近代和声学」の概要についてご紹介してみたいと思います。まず「第一篇 素材」が、旋法や和音に関する記述となっていますが、まず教会旋法について一通り触れられており、それから世界各地の民族音楽での様々な旋法が載っています。これだけでも100ページ程度を占める充実したボリュームですが、さらに続いていきます。

第二篇 応用」は、古典和声を踏まえ、それが後期ロマン派〜20世紀初頭の作品でどう拡張・応用されてきたか解説し、最後は複調と十二音技法に関する理論で締めくくる構成です。

同じく国会図書館デジタルコレクションで閲覧できる「20世紀の対位法」と合わせて読み込んでいけば、ストラヴィンスキー全盛時代までの作品の理解度が格段に深まること間違いなしです。

それ以降の作品については、博士論文(必ず国会図書館に納められるらしい)の中に面白そうなものがありそうなので、徐々に探してみたいと思います。

作曲のお勉強書籍いろいろ

国会図書館デジタルコレクションのおかげで、作曲法の基礎(えくりちゅーる?)を学べる書籍も気軽に色々と閲覧できるようになりました。

ちょっと変わったところでは、島岡譲「フーガの実習」がありました。

私はだいぶ前に、国立音大生協からネットで購入して送ってもらったことがあるのですが、「和声―理論と実習」(芸大和声)の雰囲気そのままの親切な手引書で、学習フーガの書き方を手取り足取り教えてくれます。和声の一通りの実習が終わったら、そのままスムーズにフーガのお勉強に移行できます。

和声法

島岡式の和声教本といいますと、「和声の原理と実習」も読むことができます。芸大和声(1巻のAmazonリンク)の下地になった書籍だと思うのですが、情報量はコンパクトかつ十分ですので、例えば芸大和声の膨大な量に気が遠くなる方や、最近使われている「新しい和声」(Amazonリンク)のあまりの自由さに戸惑っている方の参考書的ポジションとして役立つかもしれません。

芸大和声と少しだけ説明が違っている部分がありましたので、色々発見してみるのも面白そうです。例えば、三和音第1転回形の上声で、テノールに根音を置くことをOKだとしています(下から順に、ミミソドのような音の積み重ね)。和声外音については、芸大和声の上方転位音・下方転位音といったオリジナルの用語は出てこなくて、経過音や刺繍音など一般的な名称で説明されています。

なお国会図書館デジタルコレクションには、シェーンベルクヒンデミットピストンなど大家の和声学の邦訳版もありますが、いずれも島岡和声に比べて「ふんわり」した記述だということがわかると思います。実習向けとしては島岡式のものが一番だと思いますが、例えばピストンの著書は名曲の中でどう和声が使われているか知ることのできる「レシピ」のようなもので、箸休めとして読むと面白いです。

対位法

和声があったら対位法も、ということで調べてみると、池内やケックランなどの名著がバッチリありました!

特に池内対位法は、3声以降の部分が絶版というとても中途半端な状況でしたので、「二声対位法」だけお持ちの方には朗報です。譜例が非常に充実しています。

そして、理論書といえば淡々とした記述が多い中、ケックランの対位法(清水脩訳)はテンポよい語り口で、どういう音形がどれくらい良いのか悪いのか説明してくれるので、結構楽しく読めます。実習については少し注意が必要で、四分音符で分散和音の旋律線(ド – ミ – ソなど)がときどき出てきますが、他の本だと禁則扱いされることが多いため、実践する前にご確認を。

なお、今の日本でよく使われている対位法の理論書は、山口博史著「厳格対位法 パリ音楽院の方式による」(Amazonリンク)になると思うのですが、今ご紹介した2つと合わせていずれもフランス系の理論書ですから、相互に読み比べてみると理解が深まりそうです。

山口対位法の巻末に、他の理論書とのルールの違いを表にまとめたものがありますので、実習のときに参照しながら使うといい感じです。山口対位法の規則が一番厳しいので、そちらに合わせることになると思いますが。

ということで、少し検索しただけでもこれだけ豊富な書籍がでてくることに驚かされます。また面白いものが見つかりましたら記事にしてみたいと思います。