Spitfire Chamber Stringsの試聴サンプル(レガート)を作りました

楽器のサンプルライブラリーを買うとき一番心配になるのが、「きちんとフレーズを歌わせられるか」ということです。最近のオーケストラ音源はレガートによる音の切り替わりを収録するのがほぼ必須となっていますが、この際の挙動やタイムラグは音源ごとに異なり、購入してから「イメージと違って、思い通りにフレーズを打ち込めない」という話をよく聞きます。

今回は手持ちのSpitfire Chamber Strings(以下SCS)を使って、レガートの試聴動画を作ってみましたので、ぜひご覧ください。ありきたりなメロディーですが「旋律を歌わせるとどう聞こえるか」のイメージがうまく伝われば幸いです。

SCSは1st Vnがたった4人というかなりの小編成ですが、たっぷりアンビエンスを含んだサンプルのためか意外にスケール感が大きく聞こえると思います。

そして、もう一つ視聴サンプルをご用意しました。なんだかムード歌謡みたいなメロディーになってしまいましたが。

SCSには“Legato Performance”というパッチがあり、色々なレガートサンプルを自動で切り替えてくれます。

  • 通常のレガート(Slur)
  • 弱いベロシティでPortament
  • 強いベロシティでBowed(弓の切り返し)
  • 速いパッセージではFast(※), Runs

レガートの種類はこれだけではなく(sul Gのレガートなど)、Spitfireの弦ライブラリの中では一番豊富なようです。最近リリースされたドライな音のStudio Stringsは、レガートについてはスラーとポルタメントだけの収録ということになるのかな?だとするとちょっと寂しいですね。

なお、弓のアップ・ダウンが切り替わるところ、つまり楽譜でスラーの途切れるところでは基本的に “Bowed”のレガートを使っていますが、つながりが不自然になることもよくあり、この場合は通常のスラーの音のままです。

※Chamber Stringsと異なり、Symphonic StringsはこのFastのレガートはないようです(Runのレガートはあります)。このため、Symphonic Stringsの場合、かけ上がり等高速フレーズはおおむね問題ないものの、BPM120程度の16分音符など中速度のパッセージでもたつきを感じるかもしれません。

対応力は高め

レガート時のタイミング調整は、一律に64分音符1個だけ前に出すだけとし、それ以外の修正は行っておりません。SpitfireのChamberはレガートの遅延が少ないので、ジャストタイミングで打ち込んでもそれほど違和感なく鳴ってくれます。ただし、レガートの反応速度のバラツキはそれなりにあり、リズムの「よれ」を感じることがあるかもしれません。早いパッセージもほぼ問題なしです。

現在では、レガートで発音タイミングが遅れる音源の方が主流でしょうから、ほんの少しの調整で済むSCSは圧倒的に打ち込みしやすいのではないかと思います。

Spitfireの他の音源のレガートは……

ただ、Spitfireのオケ音源のレガートは、製品ごとにクオリティのばらつきが多いような気がします。Chamber Stringsのレガートは(奇跡的に?)同社の中で最高クラスだと思いますが、他の製品ではかなりアラが目立つ場面も。

  • Symphonic Strings……Chamber Stringsに比べ、レガート反応速度のバラツキが多め。場合によって1音ごとのタイミング調整が必要かも。
  • Symphonic Woodwinds……フルートソロはレガートタイミングのバラツキが特に目立つが、手間をかけて修正すれば大体のフレーズは鳴らせる。一方でオーボエソロは実用にはかなり厳しい。レガートの切り替わりで音が重なって聞こえ、8分音符のフレーズでさえ歌ってくれない場面も。この場合は、ロングトーンやマルカートなどで代替するしかない。
  • Studio Woodwinds……Symphonicの木管に比べレガートのもたりが軽減され、違和感なく打ち込める。Tree系のマイクは問題ないが、Close系のマイクでレガートのつながりが弱いと感じるかも。でも、このライブラリはTreeマイクのアンビエンスがかなり強めで、他の音源と混ぜるとき難儀するんですよね……

SCS唯一のデメリットは、第2Vnが使いにくいこと

今回の投稿はレガートに的を絞りましたが、実はそれ以外のところで2nd Vnがちょっと使いにくいのです。

  • サスティンは強く弾いてもアタックが弱いまま。第1の方はベロシティを高くするとMarcato Attackの音がブレンドされる仕様だが、それがない。
  • スタッカートの音が短すぎる。1stと音の長さが違いすぎて違和感があります。ただしフレーズによってはスピッカートで代用可能です。

この辺りは多少面倒ですが音を重ねてカバーすればほぼ問題なし。それを除くと奏法も充実しており汎用性も高い音源ではないでしょうか。

私の最新作のピアノ協奏曲でもSCSをメインに使っております。“Chamber”といっても、フルオケ用途で意外に使い出のあるサンプルです。