ピアノ中級~中級上の人にオススメしたい、ラフマニノフの前奏曲をピックアップ
ピアノを練習していれば誰でも憧れる鍵盤の巨人、ラフマニノフの楽曲ですが、ピアノの練習過程でその楽曲に触れる機会は(後述のOp.3-2を除いて)意外に多くないと思います。
特に昔ながらの教則本で教えているピアノ教室だと、取り扱う曲はバロックや古典の比重が多くなりがちだと思いますが、たまにはこういうロマン派どっぷりの曲も弾いてみると楽しいですし、何よりラフマニノフはしっかりとしたポリフォニーに基づいて曲を組み立てているので、多声部の処理もバッハの鍵盤曲とはまた違った難しさがありとても勉強になるのではないかと思うのです。
史上最高のピアニストとも評価される人物の作品ですから、簡単に弾ける曲はそう多くありませんが、今回は前奏曲集の中から、中級クラスで取り組めそうなものをピックアップしてみました。いずれの作品も、多くの人がラフマニノフと聞いて期待する、ピアノ協奏曲第2番のようなロマンティックでうっとりするメロディーを持った楽曲なので、コンサート受けもバッチリだと思います。
はじめに
ラフマニノフの前奏曲は24曲あり、作品番号は以下の3つに分かれています。リンクをクリックすると、パブリックドメイン楽譜を公開しているimslpのページに飛びます。
最も有名なのは最初のOp.3-2嬰ハ短調で、全音ピアノピースにも収録されており練習した人も多いでしょうから詳細は省略。なお、ピース裏面の難易度表によると中級の「C」ランクとのこと(よく言われることですが、あまり当てにならないです)。
その後、ショパンのように24すべての調性を揃える形で他の前奏曲も作曲されていますが、ショパンとは違って1曲ごとに完結しており、楽式的にしっかりとした構成を持っているものがほとんどです。
やはり要求される技巧レベルは高めで、練習曲集「音の絵」に匹敵する難曲も多数ですが、今回は先ほどの全音ピースでいうC~Eあたりの難易度のものをご紹介します。
当ブログでは自作のピアノ曲の音源と楽譜を公開中です!
中級C〜Dレベルの楽曲
Op.32-12 嬰ト短調
右手の音型がトロイカの鈴のようだとも言われる物悲しい曲。旋律はいかにもロシア的で息の長いフレージングとなっています。手の大きさもそれほど問題にはならず取り組みやすい曲だと思います。
本当にどうでもいい話ですが、本ブログと同じ名前の調性(嬰ト短調)です。この調と、それから平行長調のロ長調は、自然な指の形で音階が弾ける(短い指が白鍵に、長い指は奥の黒鍵に置かれる)ため、ピアノ曲ではたびたび見かける調指定です。
Op.32-5 ト長調
こちらは長調で、小川のせせらぎのような穏やかな楽曲です。
5連符のオスティナートの上でメロディーが展開されますが、タイミング合わせはやりやすい方だと思います(5連符はスローな方が難しい。例えば「喜びの島」の中間部など、ちゃんと計算して弾かないと間延びした感じになってしまいます)。中間部、同主短調に移り曲が暗転する部分では、バスとメロディーの掛け合いをうまく演出する工夫が必要になります。
最後の右手の重音は少し難しい音型ではあるものの、穏やかな曲調ですので落ち着いてなめらかなレガートで弾きたいところ。
中級上D〜上級Eレベルの楽曲
Op.23-6 変ホ長調
自由に行き来する左手の音型が和声をぼかしており、独特の浮遊感が印象的。不規則な動きが多い分譜読みしにくく、ペダリングの繊細さも要求されます。
Op.23-4 ニ長調
譜面を見る限り左手の音域はものすごく広いのですが、右手も有効活用すればぐっと弾きやすくなるはず。
このメロディーは繰り返されるたびに異なった伴奏音型で登場しますが、主旋律が内声に置かれることも多いのでうまく引き立ててあげる必要があり、多声部を上手にさばく技術・センスが求められます。
中間部は徐々に熱を帯び、フォルティッシモで最高潮に到達します。初期のラフマニノフはチャイコフスキーのようにフォルテやピアノを何個も連ねた強弱指定をしていましたが、徐々にそれは見られなくなりました。
その他
ここから先は、ピアノを学習していくうちにだんだんと弾けそうな曲が出てくるでしょうから、興味がある曲を譜読みしてみればいいと思います。個人的には力強くて曲の規模も大きいOp.32-10ロ短調は、聞いた感じよりも難易度低めですのでオススメ。腕に自信があればチャレンジしていただきたいのは、有名な行進曲のOp.23-5、そして壮大なフィナーレOp.32-13です。
しめやかで暗く、影のあるラフマニノフがお好きなら、ぜひ「音の絵」にも行ってみましょう。Op.33-3, 8それからOp.39-2あたりが取り組みやすい曲だと思います。
楽譜について
ラフマニノフの場合、あまり楽譜の選択肢がありません。私も所持していますが、大型書店でも入手しやすいのは全音版(平井丈二郎氏の校訂)でしょうか。
原典版楽譜のように詳しい校訂報告が載せられているわけではないのですが、音符の疑義がある箇所はきちんと解説がありますし、運指やペダルについても、作曲者のものと校訂者の指示とで書き分けがあるなど丁寧に配慮されていますので、信頼できる楽譜とみて大丈夫だと思います。