DTMオーケストラ制作の手順をご紹介!

パソコンを使ってオーケストラ曲を作る場合のワークフローについてまとめてみました。オーケストラといっても、他のジャンルの制作とそれほど大きく変わるわけではないのですが、他の人の作業手順を見ていると結構意外な発見があって楽しいので、私もこの機会にどんと公開してみたいと思います。

2022年4月に「ハ音で結ぶ管弦小組曲」をアップロードしましたので、こちらの制作段階のことを思い出しながら書いています。

出でよ、アイディア!

どんな曲だって最初は、白紙の状態からスタートするわけなのですが、私の場合は真っ白な五線紙をみると呆然としてやる気をなくすので、普段から数小節程度のアイディアをピアノ音源で適当に弾いて録音し、ストックしておくことを定期的にやっています。

このときに「さぁ録音するぞ」などと意気込んでから弾くと、緊張してしまってなかなかいいアイディアが生まれないので、知らないうちに演奏を記録してくれるような環境があれば最高です。例えば、ピアノ音源のPianoteqのスタンドアロン版は特に録音ボタンを押さなくても、これまでに弾いた演奏を勝手に記録しておいてくれるので、曲作りのお供として重宝しています。

ラフスケッチ段階

こうしてストックしておいたアイディアの中から、曲として展開していけそうなものが出てきたら、譜面作成ソフトに移行してラフスケッチ制作となります。ノーテーションソフトはDorico Proを使っていますが、Finaleから乗り換えてもう2年ほどになるでしょうか。DoricoはFinaleほどレイアウトの自由度はないのかもしれませんが、Finaleと違ってあまり細かい指定をしなくてもいい感じに楽譜をまとめてくれるので、私のようなズボラな人間には向いています。

スケッチはピアノの大譜表を2段重ね、合計4段にまとめます。音色はまだオーケストラの楽器を使わずに、ピアノのままでの制作となります。曲作り全般にわたって大事なことは、初期の段階で作り込みすぎないことだと思うのです。オーケストラ作品というのは、前後の流れでアレンジが変わることが結構あって、仕上がりのイメージをぼかしておいた方が後から修正しやすいため、リッチなオーケストラ音源を使いたい気持ちをグッと抑えて、無難なピアノの音で書き進めていきます。

ピアノでラフスケッチ

このとき下の段は弦楽器、上の段は管楽器を一応想定しているのですが、オーケストレーションのことまで考えているとなかなか進まないので、細かいことは気にせずに、とにかく楽譜を横へ横へと続けていくことに専念する感じです。

ということで、ラフスケッチの一部を恥ずかしながら載せてみたのですが、思いついたアイディアをそのまま書き重ねていった結果、音域の被りとか安易なフレージングとか、なかなかメチャクチャになっております。

そういうのは後で取捨選択するとして、とりあえず曲全体を完成させます。楽曲構成ですが、私の曲はABAの3部形式にあれこれ付着させたスタイルが多いので、最初のAとBの部分を書けば「生みの苦しみ」の峠は超えたようなものです。もちろん、繰り返しのA部分は丸々コピペでは面白くありませんのでちゃんと変化をつけますが、ゴールが見えてくると気持ち的には格段に楽になります。

オケスコアを完成させる

これをもとに、いよいよオーケストラの総譜を仕上げていきます。ラフスケッチを進めていく中で、どんな楽器が必要かイメージがある程度固まってきますので、これをもとに編成を確定させます。

  • 2管編成にする?それとも3管編成?(パーっと華やかな曲なら3管編成で)
  • 2管編成の場合トロンボーン・チューバは必要?(穏やかな曲なら基本的に不要)
  • ハープは必要?(私はほとんど欠かしません。ただし使い過ぎ注意)
  • 打楽器はは何人でどう割り振る?

先ほどのラフスケッチの部分はこんなオーケストレーションになりました。細部が少しずつ変わっています。

オケスコアを完成させる

スコアのプレイバックで使う音源はNote Performerというもので、正直なところ音質はチープ(昔のゲーム機の内蔵音源みたいな音)ですが、あまり細かく奏法を書き込まなくても大体のニュアンスを再現してくれるというのが売りなので、仕上がりのイメージはしやすいです。

ところで、このページをご覧になっている方で「オーケストレーションってどうやってやるの?」という疑問があってここにいらっしゃった方もいると思います。残念ながら、このスペースで納得いくようご説明するのは難しいのですが、いろいろ曲を作るうちに私がわかったのは「好きなオケ曲を見つけて楽器の役割分担を研究するのが一番!」ということでした。私の場合はドビュッシーの「海」が長い間リファレンスになっています。

もしクラシック音楽に不慣れでしたら、ストーリー仕立てになっている組曲や交響詩を探してみるとよいかと思います。「幻想交響曲」「くるみ割り人形」「シェヘラザード」「マ・メール・ロワ」あたりがオススメです。

DAW(Cubase)にデータを持っていく

話をもとに戻して、ここまでで「作曲」のプロセスは無事終了です。あとはオーケストラ音源を使用して、できるだけリアルに音を再現する作業となります。

まず、譜面のデータをMIDIで書き出して、Cubase Proにインポートします。それからVSTインストゥルメントを割り当てていきます。奏法を指定するVSTエクスプレッションマップなど、過去に作ったオケ曲のテンプレートを流用することも多いです。

オケのように楽器数が多いと、VSTをマルチティンバーで運用するか、それとも楽器ごとに個別のインストゥルメントを読み込むか悩みがちなところですが、私は後者の方法でやっています。その方がトラックのフリーズが楽だし、あとKONTAKTなんかでは、マルチティンバーにすると画面をスクロールする必要が出てきて面倒だというのもあります。

音源の割り当てが終わったら、奏法の割り当てと強弱の指定を行う作業に入りますが、最初は大雑把で手短に、曲全体を一気にやってしまいます。DAWで作業する段階でも「いきなり作りこみすぎない」というのは鉄則で、100点満点中40点ぐらいの仕上がりで全然問題ありませんので、まず曲全体のイメージを確定させることを優先させます。

この時点で、オーケストレーションがイメージ通りの結果にならないこともよくありますので、そのときはスコアに戻って書き直しとなります。先ほどのスコアも、実はこの後で少しだけ手を加えました。

これが一通り終わったら、曲全体を細かく作り込んでいきます。今度は80点ぐらいの完成度を目指して、テンポの細かい指定も合わせて行っていきます。特にスローテンポの場合は、1拍ごとに調整する手間を惜しまない方が、仕上がりの満足度も高くなります。

そして最後に、パート間の音量バランスを調整して、MIDIでの作業は一応完成です。この時点で、9割以上の工程が終わったことになります。ここから先はオーディオ化しての作業になりますが、そこまで進むとやり直しが効かなくなってしまうため、とりあえず10日ほど放置して、気持ちをリセットした上で仕上がり具合を再確認するようにしています。

各パートをオーディオ化して、ミックス

まず、出来上がったデータをオーディオに書き出します。第1Vn, 第2Vn……と、譜面の1段ごとに1つのオーディオファイルに書き出すのが基本ですが、細かい調整が必要なさそうな場合は弦楽器、木管楽器……と大きなセクションをまとめて出力することもあります。

細かい調整というのは、特定の音だけアタックが目立ちすぎたり、椅子の音など雑音が混入したりという耳障りな箇所で必要になってきます。オーディオファイルの直接編集か、ボリュームオートメーションを書いて修正していきます。

それが終わるとバランス調整等の「ミキシング」の段階になるのですが、オケ制作の場合大掛かりな作業は必要ありません。せいぜい、制作元の違う音源を混ぜる時にEQやリバーブで質感を揃えるだけの処理で終わらせるのがほとんどです。私の場合EQについてはまだまだ訓練が必要ではありますが、「定位を奥に引っ込めるためにハイとローを少しずつ削る」という使い方も時々します。

ここで、ダイナミクス調整のためにコンプレッサーを使うかどうかは、人によって好みが分かれるところだと思います。私はほとんど使いませんが、例えば低音楽器が一定のリズムを刻んでいる場合、ピークを抑えるのにコンプをかけるのはアリだと思います。ただ、ティンパニのロールのように音が徐々に膨らむ場合は、オートメーションで手動の音量調整をした方が自然な感じです。

それからリバーブの話で、何をどれくらい使うかはいつも悩みどころとなります。ホール・ステージなどリアルな音場の再現に向いているのはIRリバーブですが、音が広がらずに小さくまとまりやすく、また残響が濁りがちだというデメリットもありますので、アルゴリズム系のリバーブと併用することで補っていく必要がありそうです。海外フォーラムで他の人のセッティングを参考にさせてもらうと、音源の収録環境に応じて、こんな使い方をするのが多いようです。

・残響がウェットなライブラリー(SpitfireのSymphony系など)の場合、原則リバーブ不要。ただし、他のライブラリと混在させる場合は、ごくわずかに共通のリバーブをかけることも。

・ホール・ステージ収録だがリリースの残響感があっさりしている(Cinematic Studioシリーズなど)場合、テイルにアルゴリズム系のリバーブをかける。

・ドライな録音の場合は、まずIRリバーブでホール鳴りを再現してから、テイルにアルゴリズム系のリバーブをかける。

ただ、音楽制作をする皆さんはお気づきの通り、セオリー通りにいかないのがDTMの常なので、その都度試行錯誤になります。空間系のセッティングに迷って、ただひたすら時間が過ぎていくようなことも……

マスタリングして完成!

最後にマスタリング……といっても特段凝ったことはしないのですが、一応他の曲との音量のギャップを簡単に調整して、マスタートラックに音の質感をまとめるためサチュレーション系のエフェクトを少しだけかけて、最終的な書き出しとなります。

マスターでのトータルコンプレッションは、オケの場合基本的に行っていません。室内楽的な編成でしたら、薄めにかけると統一感が出ていい感じになりますが、オーケストラではマイナスに作用することが多いのではないかと。

それからマスタートラックといえばリミッターですが、これも基本的に不要だと思っています。オケの場合、音のピークになる部分は限られていますので、そこをオートメーションで制御すれば大丈夫です。ただ、制作途中ではボリュームの設定ミスでうっかり轟音を出してしまわないよう、必ずリミッターをマスターに挟みますが、積極的にリミッティングさせる使い方はしていません。

ということで、これで晴れて完成となります。こんな感じに仕上がりました。先ほどのスコアの場所は40秒あたりからです。

タイトル命名は一番最後です

そして、画竜点睛として題名をつけて制作終了、と書けばかっこいいかもしれませんが、私はタイトル付けにいつも困っています。一応、それなりに思いを込めて作っているわけですから、かっこいい表題をつけてあげたいと思うのですが……なお題名を決めるのは、一番最後でいいと思います。最初に決めてしまうと、そのイメージに縛られて自由な発想ができなくなってしまうような気がして。

というわけで、オケ制作の一連の流れを文章にしてみましたが、実際の制作はこんなにスムーズにいくことはなかなかなくて、行ったり戻ったり。ときには長い間放置して、突如続きが思い浮かんだりという流れを繰り返しています。私の場合は5分の曲でも完成まで2ヶ月ほどはかかり、そのうちラフスケッチまでで4割ぐらい(3週間ほど)の時間を使うような工程です。

アイディアさえ出てくれば……創作系の活動をする方は皆さん思うところではないでしょうか。ということで、今日もアイディアが出てこなくて苦しむと思いますが、めげずに曲作りを頑張っていきたいと思います。