「ペトルーシュカ」で学ぶ楽器の交代術と、伊福部管絃楽法での指摘

最近のオーケストラ音源のデモ曲ではよく、シンセのアルペジエイターで鳴らしたように同一音型がずっと続くような楽曲を見かけます。

事実、Spitfireの音源は、確かにOstinatumというアルペジエイター的なものを搭載していて、BGMなどを手速く作るとき便利な仕様になっています。でもオケ曲を書くからには、管楽器の息の続く時間や、弦楽器なら弓の長さやトレモロでの手の疲労も考慮してパートを書きたいと思うのが個人的な意見です。

実際のオーケストラではどうなっているのか、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」で楽器の交代のさせ方が面白かったので、ここでちょっとご紹介させていただきます。本当は現在よく演奏される3管編成版をご紹介すべきでしょうが、スコアがなかなか高価で入手できていないので、ドーヴァー社の初版(4管編成)のものをスキャンして引用させていただきました。

冒頭部、クラリネットとホルンのオスティナートの上に、フルートのソロが乗っかるというオーケストレーションです。6小節が一つの区切りとなっています。

ホルンの交代は2本ずつ、2小節ずつでわかりやすいですが(4管編成と規模が大きいのに、ホルンは4本で済ませているのも面白いですね)、注目すべきはクラリネットです。

声部は2つに分かれていて、3本のClがうまく分担して吹いていきます。各パートは2小節吹いたら1小節休む形です。どの声部を誰が受け持つのか、ちょっと図表にしてみました(実音表記。調号を書くのを忘れましたが、読譜に支障はありません)。

クラリネット交代の図

こうして見ると、1小節ごとに上下の組み合わせを変えることで、変化を与えつつもなめらかにつなごうとするのがわかります。

楽器の特性を使い分ける

この冒頭部は、伊福部昭氏の「完本 管絃楽法」で面白い指摘があります(p.127~128)。

もう一度上のスコアをご覧ください。クラリネットが16分音符、ホルンが8分音符で書かれているのに注目です。速い動きの得意なクラリネットと、苦手なホルンの組み合わせ。楽器の特性に応じて適切なフレーズを使い分け、聴覚的にも十分な効果を上げる巧みさをこう表現しています。

(前略)Cornoは自然な容易な速度で動いているに拘らず,これと組み合わされたClarinettoの速いShakes――これは極めて容易であり,また得意とする処(ところ)である――によって,耳には恰(あたか)も,Cornoも同様に速やかなShakesを行っているかの如くに響く。該例は,考え得る最も単純平易な手法によってはいるが,その効果は正に圧倒的である。敢えて云えば,このような扱いに至って,はじめて管絃楽法と呼び得るのである。

Shakesはとりあえず「トリル」と置き換えて読んでみてください。私の見落としがなければ、おそらく「完本 管絃楽法」の中でオーケストレーションについてここまで賞賛した記述は他になかったと記憶しています。群衆のざわめきを、クラリネットとホルンのコンビネーションがうまく表現しています。